監督:滝田洋二郎
出演:本木雅弘、山崎 努、広末涼子
吉行和子、余貴美子、笹野高史、山田辰夫
第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した、今日本で一番有名な映画ではないでしょうか。
父と母が観に行くというので、アタシも一緒に観に行ってきました。
「死」を扱う仕事に対して偏見なんて持ってないって思ってたけれど、
この映画を観て、自分でも気付かないうちに偏った考えを持っていたことに気付かされました。
東京でプロのチェリストとしてなんとか夢を叶えることが出来た矢先、
小林大悟(本木雅弘)は、所属するオーケストラの突然の「解散」によって夢を絶たれてしまいます。夢を絶たれたということは−つまりそれは失業ということ。
「どうしたの?」仕事から帰宅したwebデザイナーの妻・美香(広末涼子)は、塞ぎこんでいる大悟に声を掛けます。
「うん…解散」
「何が?」「楽団」
「…そっか。でもまた次を探したらいいじゃない。」
「僕の実力では簡単に次は見つけられないよ。借金もあるし。」
「いくら?」そう美香に聞かれた大悟は、指で「1」と「8」を示します。
「100万くらいだったら、私の仕事でなんとか返せるわよ」
「−いや違うんだ。…せんはっぴゃくまん」
−大悟は新しいチェロを買ったばかりで、美香はその金額を知らされていませんでした。
「故郷に帰ろうと思う。」そう切り出した大悟に美香は右手を挙げ「賛成!」と笑顔で言います。
山形に戻った大悟と美香は、かつて大悟の母親が経営していた喫茶店で暮し始めます。
もともとは大悟の父親がやっていた喫茶店だったのですが、その父親が店の女の子と逃げてしまい、その後母親が女でひとつで大悟を育てながら経営を続けていました。
その母親もすでに亡くなり、父親も消息の分からないままの大悟にとって、身内は妻である美香ひとり。
早速職探しを始めた大悟の目に飛び込んできた求人広告。
「安らかな旅のお手伝い」
実働時間も短くて高収入。−「旅行代理店じゃない?」
求人広告に書かれた住所を訪ねてみると、くたびれたビルに「NKカンパニー」と書かれた看板がかかっていました。
事務所に入ってみると、一人の女性の事務員上村百合子(余貴美子)がいて−そしてなぜか壁には棺おけが立てかけられていて。
「これが5万。これは10万。そしてこのひのきの棺おけは30万。人生最後の買い物は他人が決めるのよ。」
まもなく外出先から戻ってきた社長・佐々木(山崎努)。
佐々木は大悟を一目見て、すぐに採用を決めます。
「えっ?あの、仕事って…?」
「のうかん。」
「のうかん?広告には『旅のお手伝い』って」
「あ〜。これ誤植だな。」そういって山崎は「旅」のあとに「立ち」と付け加え、納棺が仕事であることを告げます。「納棺だから『NK』」
複雑な思いで自宅に戻った大悟に「面接、どうだった?」と声をかける美香。
「うん。旅行会社じゃなかったんだ。」
「え。じゃなんの仕事?」「冠婚葬祭」小さな声で答える大悟。
「結婚式場?チェロまた弾いたりして!」明るくそう言う美香に大悟は何も言うことが出来なくなってしまいます。
翌日から「納棺師」として働き始めた大悟。自宅を出て美香の姿が見えなくなってから「黒いネクタイ」をはめる−そんな毎日が始まりました。
そしていよいよ始めての「仕事」をする日がやってきました。
社長に連れられてきた場所は、誰に看取られること無くひとり静かに死を迎えた老人宅でした。
「僕は何をすれば」
「初めだから、見てるだけでいいや」
悪臭放つ現場に足を踏み込んだ大悟は、思わず顔をしかめ口を押さえ、ともすればこみ上げてくるものをこらえるのに精一杯。
辺り一面にハエが飛び、蛆が這う部屋。
こんもりと盛り上がったふとんを社長がめくった瞬間、大悟は思わず顔を背けます。
−そこに横たわっていたのは、誰にも気付かれること無く何ヶ月もたった−腐敗した遺体。
「ほら、そこの布団の端を持って」「−は、はい。−見てるだけでいいって言ったじゃないですか」
「しっかり持て!」−社長は声を荒げ大悟を怒鳴りつけました。
仕事帰りバスに乗ると、同乗していた女子高校生たちの「なんか臭くない?」という囁き声が聞こえてきました。
そっと自分の臭いをかぐ大悟。
その足で、幼なじみの母親が経営する銭湯へと向かいます。
今日起きた出来事の全てを洗い流すかのように、自分の体を強く強くこすりました。
この日、自宅に帰ると夕食は鶏鍋。解体された鳥の肉を目にした大悟は吐き気をもよおしてしまいます。
大悟の体調を心配した美香が側に駆け寄ると、大悟は思わず美香にしがみ付いてしまいます。
「死」というものをまざまざと見せ付けられた大悟は美香の体を求めることで「生」の温もりも感じたかった。
突然社長に呼び出された大悟が向かったのは、劇場。
舞台には葬儀のセットが施されていて、大悟は着替えるように言われます。
「モデルさん、準備できました!」
現れたのは−首から上と、両手両足を白塗りされ紙おむつをはめさせられた大悟でした。
この日「納棺の手引き」のDVDを撮影することになっていて、その「遺体」役として駆り出されたのです。
ある日、ばったりと銭湯の幼なじみの山下(杉本哲太)と出会った大悟は、一緒にいた妻と娘にも挨拶をしようとしたのですが幼なじみに拒まれてしまいます。
「お前、もっとまともな仕事につけや。」
−大悟の仕事が人づてに広がっていたのでした。
自宅へ戻ると美香がTVの前に、怒りに満ちた表情で座っていました。
−TVに映し出されたもの…大悟が遺体役として出演した「納棺の手引き」のDVD映像でした。
「僕の机の引き出し、見たの?」
「今はそういう問題じゃないでしょ!どうして言ってくれなかったの?」
「言ったら、君は賛成しなかっただろう?」
「当たり前じゃない!こんな仕事。恥ずかしくて人に言えない」
「−こんな仕事?」
人は誰だって死ぬ。僕だって、君だってそうじゃないか。
「ね、お願い。今すぐ辞めて。楽団が解散して、大ちゃんが山形に帰るって言った時も何にも言わないでついてきたじゃない。だからお願い、今度だけは言うことを聞いて!ね、お願い」
懇願する美香の言葉に頷くことができない大悟。−少しずつ「納棺」の仕事に対しての考え方が変わり始めていた大悟は、美香の言うことがわかってはいても受け入れることができませんでした。
「辞めないって言ったら?」
「実家に帰る。仕事辞めたら迎えに来て」
そういい捨てて立ち上がった美香を引きとめようと美香の腕を掴んだ瞬間でした。
「触らないで!」
それでも引きとめようとする大悟に向かって投げつけられた言葉に大悟は体が凍りつきます。
「触らないで!穢らわしい!」
美香はその言葉を残し、実家へと帰ってしまいます。