監督:土井裕泰
出演:阿部寛
溝端淳平
新垣結衣
黒木メイサ
田中麗奈
松坂桃季
劇団ひとり
三浦貴大
中井貴一
テレビドラマ・新参者、スペシャルドラマ・赤い指。
どちらもすごく面白かったので、今回のこの映画もとても楽しみにしていました。
前2作同様、派手なトリックや謎解きはなく、家族愛が強く感じられる映画でした。
ある夜、東京・日本橋の麒麟の像の下で、腹部にナイフが刺さったままの状態で一人の男が生き絶えます。男の名前はカネセキ金属の製造本部長・青柳武明(中井貴一)。
そのころ、父親の3回忌の打ち合わせを看護師・金森登紀子(田中麗奈)としていた加賀(阿部寛)はすぐに現場の日本橋へと向かいます。
被害者の青柳は驚くべきことに麒麟像付近で殺されたのではなく、刺された場所から8分間も歩いて来た事がわかります。
ほどなく現場付近の公園の茂みに隠れていた男・八島冬樹(三浦貴大)が緊急パトロール中の警察官に発見されるのですが、冬樹は逃げ出してしまいます。
警察からの追跡から逃れようとした冬樹は途中、大型トラックに跳ね飛ばされ、意識不明の重体に。
冬樹の幼馴染みで同棲中の恋人・中原香織(新垣結衣)はバイト先の精肉店で冬樹からのただことではない電話を受け、胸騒ぎを覚えます。
「面接どうだった?」
「やばいことやっちまった。」
「冬樹君?」
−切れた電話は2度とつながることはありませんでした。
不安な気持ちのままアパートに帰り着いた香織の携帯が再び鳴ります−着信には冬樹の名前が!
「冬樹くん!?」
−電話の向こうから聞こえてきたのは、聞いたことのない男の声。
あわてて病院へと駆けつけたが見たのは変わり果てた冬樹の姿でした。
警察から事の成り行きを聞かされた香織は言い放ちます−冬樹君は犯人じゃない!
同じ病院には青柳の家族も駆けつけていました。
「こちらがご主人の所持品です」
「こんなデジカメ持ってたかしら?」
「お父さん、ネットカフェなんかに行ってたの?」
−あまりにも知らなかった夫の、父親の姿。
警察は、事故にあった冬樹が青柳のかばんを持っていたことから、容疑者として調べを始めます。
冬樹は半年ほど前に派遣社員で働いていたカネセキ金属を契約満了を待たずして解雇されていたことがわかります。
しかも青柳がその工場の製造本部長であったことから、解雇されたことを逆恨みした冬樹が青柳を襲ったのではないかという線で調査が進められていきます。
一方、青柳はさされる前に現場近くのカフェにいたことがわかります−しかもひとりではなかった。
冬樹の派遣仲間の証言から、冬樹が仕事中の事故が原因で解雇されたことがわかります。
さらにその事故は本部長であった青柳の指示で“労災隠し”したと証言した工場長の小竹(鶴見辰吾)の報道が流れると、マスコミは一気に青柳を、青柳の遺族をたたき始めます。
やがて、重体だった冬樹が息を引き取ります。
−手がしびれていることを理由になかなか再就職に真剣になろうとしない冬樹に苛立ちを感じ始めていた香織。
「ちゃんとしてよ!」「もう手の痺れ、よくなったんだよね?本気で仕事探してよ!」
「−俺さ、やりたいことがあって…」
「世の中そんなに甘くないんだよ!」
追い詰めたのは私−激しい自己嫌悪に陥る香織は体調を崩し倒れてしまいます。
−香織のおなかの中には冬樹との新しい命が宿っていました。
青柳の長男・悠人は父親である武明に対してトゲのあるものいいをするばかり。
中学生時代には水泳選手として活躍をしていたのですが、中学3年の夏が終わるころ突然水泳を辞めてしまっていました。
そのことで口論となっていた武明と悠人。
武明はそのことで中学時代の水泳部の顧問・糸川(劇団ひとり)に電話をしていました。
加賀の後輩でジャーナリスト青山亜美(黒木メイサ)からの情報で、青柳が亜美のバイトするお茶屋に週末訪れていたことを知ります。
青柳が千羽鶴を持って水天宮回りをした理由。
ネットカフェの会員証を持っていた理由。
息子・悠人の中学生時代の水泳部の顧問に電話をした理由。
悠人があれほど打ち込んでいた水泳をぱったりとやめてしまった理由。
なぜ刺されてから麒麟像まで瀕死の状態でありながら歩いたのか−。
次々と出てくる真実がつながりを見せ始めたとき物語はスピードを増して一気に展開します。
すべての道は日本橋の麒麟像から始まる−。
麒麟像のあるここから羽ばたいて行く−。
「赤い指」のときにも感じたことなんだけど、親の愛情っていうのは、子供がどんな窮地に追い込まれようとも、罪を犯そうとも絶対に揺らぐことのない−この世の中で一番強いものではないかと思います。
今回のこの「麒麟の翼」でもその部分がとても強く伝わってきます。
子が親を思うより遥かに大きな愛情を親は子に注ぐものなのでしょう。
親の愛情に勝るものはない−。
派手な謎解きの映画もいいけれど、見終わった後に自分の中の残ったものをかみしめることができるような映画−そんな映画もたまには必要です。